Tales of Another Story Prologue〜そして私たちは出会った〜




Prologue〜そして私たちは出会った〜





――――――在るがままの“世界”と、創り変えられた“世界。”

                    貴方は、どちらの“世界”を選びますか――――――。




――――私たちの出会いは、ここから始まった。


舞台はここ、学園都市ミンツから始まる。


元は小さな町だったが、病院や雑貨店などが多数設けられ、大学は高等部、大学部に分けられ、学園都市として発展を遂げた。


その後町はさらに大きく発展して、やがて「学園都市」と呼ばれるようになったという。


ここには制服を着た多くの学生たちが登校している。


男子はブレザーにネクタイとズボン。女子はブレザーにスカート。


学園はいつしか制服制になっていて、デザインもよく学生たちにも評判がいい。学園には寮があり、そこから通う人が殆どだ。


「やっば〜!遅刻遅刻〜!」


1人のお下げの女子生徒が、大慌てで寮から飛び出してきた。


彼女の名前はリリス・エルロン。


ある日をきっかけに、ミンツ学園に通うことになった17才の学生だ。まだ学生生活に慣れていないのか、遅刻しそうになることもしばしば。


さて。何故リリスが学園に通うことになったのか、それは3ヶ月前にさかのぼる。




1.始まり


「えっ?お兄ちゃん、ルーティさんと一緒に暮らすの?」


リリスが食器を洗いながら、スタンに尋ねる。


「あぁ、クレスタの孤児院で一緒にな」


「あのねお兄ちゃん・・・・・・そう簡単に言うけど、大丈夫なの?」


「だ、大丈夫だって!俺だって、その・・・・なぁ、ディムロス」


返す言葉が見つからず、意思を持つ剣――――ディムロスに振る。


『ルーティがいれば心配ないだろう。スタン1人では、ろくに炊事洗濯もできないからな』


ディムロスのきつい一言がスタンの胸に突き刺さる。


「そ、それくらい・・・・・」


「できないでしょ?」


リリスのとどめの一言。


「はい・・・・できません」


スタンはガクッと顔を俯かせた。


「・・・・・でも、好きな人と一緒に暮らせるんだから、いいんじゃないかな?」


と、リリスは


「リリス、お前・・・・・」


リリスは少し寂しそうな顔をしたが、すぐに笑顔を作った。


「だから・・・いってらっしゃい」


私のことは心配しないでと、そんなリリスの気持ちが伝わってくる。


「じゃあ・・・俺―――――」


――――――トン、トン。


玄関からノックの音が聞こえてくる。


「はい!今出ます」


玄関へ向かい、扉を開けると、そこには薄い緑色のローブを着た女性が立っていた。


眼鏡をかけた、銀色の髪を後ろに束ねている。年齢は30歳くらいだ。


「あなたがリリス・エルロンさん?」


女性が尋ねる。


「は、はい。そうですが・・・・どちら様ですか?」


「私、ミンツ学園講師および責任者のフィアネス・アークロームと申します。少々お時間を頂けないでしょうか?」


「あ・・・はい、どうぞ」


突然の訪問者。スタン、フィアネスは椅子に座り、リリスはフィアネスにお茶を出す。


「あの、リリスに何かご用でしょうか?」


最初にスタンが尋ねる。


「えぇ。突然なんですが、実は・・・・彼女を学園に入学させたいと思ってここへ来ました」


「えっ!?学校に・・・・ですか?」


「はい。私は今、優秀な生徒を募集するために各地を回っているんです」


「え・・・・でも私、優秀なんかじゃ・・・」


そんなリリスに対し、フィアネスはにっこりと笑った。


「あなたのご活躍は聞いていますよ。ビストロシャンバールで味マスターとして腕を振るったそうじゃないですか」


確かに、リリスは柄だけのディムロスを修復するために異世界へ回ったことがある。


インフェリアに行って成り行きで味マスターとなり、料理対決でファラと激戦を繰り広げたこともあった。


「お兄さんの持っているディムロスだって、あなたが直したのでしょう?」


フィアネスはディムロスのことも全て知っていた。


「な、なんでそんなことまで・・・・・」


「あなたの行き来した世界で、噂になっているのを耳にしたんです」


フィアネスの話によると、他の世界ではリリスはちょっとした有名人らしい。リリスはしばらく考え込む。


「でも、学費が・・・・」


学費のことを心配するリリスだが、フィアネスは首を横に振った。


「心配には及びません。学費および制服代は全額こちらで負担させていただきます」


なんと学費は全て学園側が負担してくれるという。


「ぜ、全額!?・・・・・どうしよう・・・」


リリスは迷い、とりあえずスタンの方を向いた。


「・・・・・行ってこいよ、リリス」


「お兄ちゃん・・・・・」


「だってお前、前から勉強したいって言ってたろ?いつも家事ばっかりで自由きかなかったしな」


「・・・・・・・・・」


確かに、スタンの言う通りだった。今の生活に満足していないわけではない。ただ、大好きな村を離れると思うと、心が揺らぐ。


「少し、時間をください」


リリスは立ち上がると、逃げるようにう自分の部屋へと戻っていった。




ベッドに倒れこみ、リリスは枕に顔を押し付けた。


「・・・・・・・・・・・・」


突然のことで、頭の中の整理がつかない。学園入学、優秀、情報が次々とリリスの中を駆け巡る。


学園に憧れていたのは事実。ただ、住み慣れた村を離れたくはなかった。


(村を、離れる・・・・)


いきなり決心がつく筈もない。どうしたらいいか、リリスはシーツを思いっきり掴み、しばらく考え込んだ。


―――――それでもやっぱり、村を離れたくない。


「・・・・・せっかくだけど、断ろう」


ベッドから起き上がると、リリスはスタンとフィアネスのいる居間へと戻った。




「すみません、せっかくのお誘いなんですが・・・・・お断りします」


リリスはフィアネスに頭を下げ、学園の入学を断った。


「そうですか・・・・それは、残念です」


残念そうに笑顔を崩すフィアネス。来てくれると思っていたのだろうか、酷く落胆しているように見えた。


「いいのか・・・・リリス?」


スタンも考え直すよう勧めるが、リリスの決断は変わらなかった。


「私、この村が好きなんです。何もない所だけど・・・・私にとっては、大切な故郷だから」


告げて、リリスはもう一度だけフィアネスに頭を下げ、再び部屋へと戻ろうとした時、


「――――――ふん、つまらない女だ。お前」


突然、場が一瞬にして凍りついた。冷たく、棘のような言葉を発したのはスタンでも、ディムロスでもない。


フィアネスが口にした言葉だった。


「どういう、意味ですか?」


リリスはフィアネスに向き直り、フィアネスを睨み付ける。


ただ、そこでリリスが目にしたものは、フィアネスではないように見えた。


穏やかな表情とは一変、まるで誰かに乗り移られているかのように、虚ろな目をした不気味な表情をしていた。


「そのままの意味だ。自分の世界から抜け出そうとせず、そうやって殻に閉じこもうとする。そこには何の進展もない」


リリスをまるでゴミか何かを見るような視線を注ぎながら、フィアネスは淡々と言葉を口にする。


「何なの・・・・一体。お兄ちゃん、この人なんか変だよっ!」


座っていたスタンに話しかけるリリスだったが、スタンは黙ったままで、何も言葉を発してこない。


「ちょっと、こんな時に何寝て・・・・・お兄ちゃん?ディムロス?」


様子が変だと気付いたリリスは、スタンの身体を揺さぶる。しかし、反応はなかった。


ディムロスも機能を停止しているのか、コアクリスタルが反応しない。


「しばらくの間眠ってもらっている。余計な口出しをされると都合が悪い」


言って、口元を吊り上げるフィアネス。


大事な家族に手を出され、怒りを押さえきれなくなったリリスはフィアネスの襟に掴みかかった。


「ほう、威勢がいいな」


「いますぐお兄ちゃんを元に戻して!戻さないと・・・・私、あなたを許さない」


「・・・・・・・・」


リリスの鬼のような形相に圧倒されたのか、それとも興ざめしたのか、フィアネスは右手の指をパチンと軽快に鳴らしてみせた。


「これで数分もすれば起きるだろう。さっさとその手を離せ」


疑心暗鬼だったが、リリスはようやく掴んでいたフィアネスの襟を放す。


「・・・・・・今すぐここから出て行って」


「ああ、すぐに出て行ってやる。お前みたいな女に興味はない」


フィアネスは気だるそうに立ち上がると、リリスたちから背を向けて玄関の方へ去っていく。


そして去り際に、こんな言葉を口にした。


「――――――じゃあ、さよならだ。“ブラコン少女”」


イタズラな笑みを浮かべ、フィアネスは玄関の扉に手を掛けた。


「・・・・・・・・・・・ちょっと、待った」


今の一言でリリスの中のスイッチが入ったのか、去っていくフィアネスの肩を掴む。


「“ブ ラ コ ン” っ て、ど う い う 意 味 で す か ?」


怒り爆発寸前のリリスは、笑顔でフィアネスに問いかけた。その笑顔は今にも鬼へと変貌しそうな勢いだ。


「いつまでも兄から離れられない。だから村からも離れられない。巣立ちのできない鳥の雛だ」


「そ・・・・そんなことないっ!」


散々馬鹿にされたあげた上、ブラコン呼ばわり。当然リリスも黙ってはいられない。


しかしフィアネスは相手にすることはなく、


「説得力がないな・・・・まあいい。それより手を放せ。もうお前に用はない」


リリスの腕を払いのけて立ち去ろうとしたその時だった。


「・・・・・・・・い、いいわよ。行ってやろうじゃないのよ!」


突然、家中にリリスの怒涛のような声が響いた。


「行くって、どこへだ?」


「学園よ、行ってやるわよ。私もう17歳よ!?お兄ちゃんなんかいなくたって、さびしくなんか全然ないんだから!」


言いたい放題言葉を吐き出すリリス。勢い任せだが、どうやら決心がついたようだ。


「だから――――――連れて行って。その場所に」


「・・・・・・・・・・・・・」


すると、フィアネスの表情が嘘のように切り替わる。冷徹な笑みは消え、最初に会った時の表情に戻っていた。


「え・・・・・よ、よろしいんですか?」


まるで今まで心ここにあらずといった感じの反応だったので、リリスの怒りのボルテージは急激に冷めていった。


「行くって言ってるでしょ!・・・・さっきからなんなんですか、急に態度が変わったり」


「あの・・・・・私、何かしました?」


身に覚えがない、とフィアネス。リリスは面倒になったので、もういいですと言って話を打ち切った。


「お兄ちゃんもいつまで寝てるの!?早く起きなさいよ!!」


眠っているスタンを起こそうと、耳をぐいっと引っ張り上げるリリス。


「い、いでで・・・・・・ん・・・ああ、おはようリリス。そういえば、決心はついたのか?」


「・・・・・行くことにしたわ」


リリスは寝ぼけているスタンに呆れ返りながら、荷物を纏めに自分の部屋に戻っていく。




・・・・・・そして10分後。


リリスはカバンにぎっしりと荷物を積め、出発する準備万端で居間にやってきた。


そんなリリスを見て、フィアネスが申し訳なさそうに苦笑いする。


「あ・・・・そんなに急がなくても結構です。明日の昼過ぎに、私がまたそちらに伺いますので」


「・・・・・・へ?」


なんという早とちり。急に恥ずかしくなったのか、リリス思いっきり赤面する。


「歓迎しますわ、リリスさん。来るって言ってくれて、ありがとう」


フィアネスはもう一度お辞儀をし、スタンたちの家を後にした。まるで嵐のような時間だった。


「・・・・・・・・はぁ」


リリスは荷物の入ったカバンを放り投げ、テーブルに突っ伏す。


「よ・・・・よかったじゃないか、リリス!」


とりあえず、スタンはリリスに肩をポンと叩き、言葉をかける。しかしリリスは溜め息をつくばかりだ。


とは言うものの、一人立ちする“きっかけ”はできたのかもしれない。


そう考えるとフィアネスに感謝すべきではないかと思う。あの豹変が何だったのかは知らないが、少なくともいい刺激になった。


何事にも前向きに。リリスは思考を切り替える。


(学園、か。どんな所なんだろう)


期待と不安を抱えながら、今日という一日が過ぎていく。


――――――――――――――――――――――――――――。



次の日、リリスは昨日まとめた荷物を持ち、スタンや村の人たちに別れを告げる。


そして、フィアネスとともにレアバードに乗り、学園都市―――――ミンツへと向かった。


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