Tales of Another Story Prologue〜そして私たちは出会った〜




4.お見舞い


授業が終わり、寮へと戻るリリスとノーマ。他愛のない会話をしながら、いつもの帰り道を歩く。


その途中で、アニーとばったり出くわした。


「あ、リリスさんにノーマさん」


アニーは制服の上に白衣を着ていて、手には大きなカバンを持っていた。


「あれ、アニーは今から仕事?」


「いえ、違うんです。実は病院の院長が風をひいてしまって・・・・これからお見舞いに行くところなんです」


アニーは学園に隣接しているミンツ総合大病院で院長―――サラ・エルミナスの補佐として働いている。


その院長が風邪で倒れてしまい、院長家にお見舞いへ行く途中なのだという。


「それじゃ、院長が待ってますんで・・・・・・・・・あぁっ?!」


突然何かを思い出したように大声を上げるアニー。思わずリリスとノーマは耳を塞ぐ。


「どったのさ、アニちん?」


ノーマは耳を塞いだまま尋ねる。


「お見舞い用のケーキ、取りに行くの忘れました」


「予約か何かしてたの?」


「はい、スウィート☆パラダイス1日10個限定の”エクレールラルムパイ”を予約してあるんです」


スウィート☆パラダイス―――学園から歩いて徒歩10分の所にあるという、豊富な種類のケーキやお菓子が評判の店だ。


特にエクレールラルムパイは、フラムルージュタルト、ディバインショートケーキに並ぶ1日10個の限定スウィーツらしい。


「あっ、じゃああたしたちが代わりに荷物届けるから、アニちんケーキ取りに行ってきなよっ」


任せてと言って、ノーマは胸を張る。


「え、いいんですか?」


「うん!リリっちもいいよね?」


リリスもうん、と頷く。


「で、その院長さんの家ってどこなの?」


リリスたちは院長の家を知らないので、アニーに連れて行ってもらうことになった。




着いた先は、アニーの働いている病院のすぐ近くにある20階建ての大きなマンションだった。


「うわっ、なんかすっごい家賃高そう」


聳え立つ高級マンションに圧倒され、思わず感想をもらすノーマ。


「院長はマンションの5階に住んでます。玄関の札に院長の名前が書いてありますから・・・・それじゃ、お願いします!」


アニーはリリスたちに荷物を渡し、ケーキ屋へと走っていった。


「ノーマ、もしかしてお見舞いついでにケーキにありつけるとか思ってない?」


リリスにはノーマの行動に察しが付いていた。目当てはケーキだろう。図星をつかれ、身体をビクッとさせるノーマ。


「そ・・・そんなことないって!さ、早くいんちょさんのことに行こーっ!」


ノーマは無理矢理その場を誤魔化して、リリスと一緒にマンションの入り口へ入っていく。


5階へ上がり、2人はいくつもの玄関の中、サラが住んでいる場所を探す。


「あれ・・・・・奥に誰かいる」


リリスが一番奥の玄関に立っている女性を指差した。金髪で、薄い茶色のコートをきた若い女性だった。


足下にはどこかで買い物をしてきたであろう、食材やら消耗品やらが入ったの袋が置かれている。


女性はコートのポケットに手を突っ込み、何かを取り出そうとしていた。


「あ、あの人に聞いてみよ。すみませ〜ん」


リリスが女性に声を掛けると、女性はリリスたちに気付き、顔を向ける。


「・・・・・学生さん?何か用かしら」


「えっと、ここにサラっていう人――――――」


―――――カチャ。


突然、女性のコートの中から何かが落ちる。


それは、二丁の拳銃のようなものだった。落ちた拳銃に、リリスたちの視線がいく。


「ひっ・・・・あ、あ、あれってもしかして“譜銃”!?」


ノーマの顔が次第に青ざめていく。リリスは何のことか分からず、ノーマに疑問をぶつける。


「ノーマ、”ふじゅう”って、何?」


譜銃―――音素のエネルギーを射出する特殊な銃の事だと、ノーマが説明してくれた。


ようするに武器だ。集団住宅の中でそんな物騒な物を持ち歩いているのは怪しい。


「あっ・・・・その、これは違うのっ!」


女性は慌てて譜銃を拾い上げ、リリスたちに誤解だと言って首を振る。


「まさか、ごごごごご強盗じゃ・・・!?」


ノーマはリリスの後ろに隠れ、リリスは警戒心を強めて女性を睨み付けた。


「だから、違うの!これは、その、護身用で・・・・」


いくら弁解をしても、リリスたちには信じてもらえそうにない。むしろ不信感が高まっていくばかりだ。


すると、アニーがケーキの入った袋を持って下の階から上がってきた。


「あれ、2人ともまだそこにいたんですか?」


アニーはてっきり、サラの家に入って待っているのだとばかり思っていたようだ。


「アニー?じゃあ、この子たちは・・・・・」


女性はアニーを知っているようだった。これで誤解が解けそうだと、少しだけ安堵する。


「こんにちは、ジゼルさん。院長のお見舞いに来ました」


「えっ?この人、アニちんの知り合い?」


後ろに隠れていたノーマがひょっこりと顔を出す。リリスもアニーの知り合いだと分かったのか、強張った顔が少し緩んだ。


「はい。あの・・・・何があったんですか?」


現状を理解できず、アニーは呆然とリリスたちを眺めている。とりあえず、リリスは一部始終をアニーに説明する。


「強盗!?ち、違いますよ、ジゼルさんは院長と一緒に住んでる人です」


ジゼルはサラと同居している人だったとアニーは言った。とりあえず、これでジゼルの誤解は解けただろう。


「と、とりあえず中へ入って。後の事は・・・・中で説明するから」


ジゼルは3人を自宅――――サラの家へと招き入れた。




中へ入った4人はリビングに行き、椅子に座って寛ぎながらさっきの話を続けていた。


「ごめんなさい。私たち、とんだ勘違いを・・・」


強盗呼ばわりしてしまったことを、頭を下げて謝るリリスとノーマ。


「あなたたちが謝ることじゃないわ。護身用とはいえ、あんなものを持ち歩いていた私にも責任はあったし」


誤解されて当然だったと、ジゼルが申し訳なさそうに呟いた。


「ジゼルさんは護身用にいつも譜銃を持ち歩いているんです・・・・私も最初はびっくりしましたけど」


思わずアニーが本音をもらす。銃を持ち歩けるなんて、この街は何でもありなんだなとリリスとノーマは思った。


「これからは、譜銃を置いていくことにするわ」


この一件で思い知ったのか、ジゼルはもう譜銃の携帯は控えることにした。


「あらアニー・・・ゲホッ、ゲホッ・・・来てくれたの?その人たちは・・・患者さん?」


寝室から出てきたのは、サラ本人のようだった。薄いピンク色の寝巻き姿で、長い髪の毛はボサボサ。その上顔色も悪い。


むしろあなたの方が患者さん?と、リリスたちは突っ込みたかったことだろう。


「・・・・サラ、まだ風邪が治ってないんだから寝てないと」


ジゼルは立ち上がり、今にも倒れてしまいそうなサラの身体をそっと支える。


「大丈夫・・・大丈夫・・・」


まるでどこかに意識が飛んでしまっているような曖昧な表情。とても大丈夫そうには見えない。


「ベッドから落ちたりしてない?」


「落ちてない、落ちてないよ・・・夢の中でだけど」


「うん、大人しく寝てようね」


ジゼルはぐったりしたサラを強制的に寝室へと連行した。


「・・・・ね、ねぇアニちん。あの人ホントに病院のいんちょさんなの?」


あれが病院の院長にはとても見えないよ、とノーマ。


「あ、はい。普段はあんな感じの人じゃないんですけど・・・」


アニーはそう言って苦笑いした。しばらくして、ジゼルがリビングに戻ってくる。


「また落ちなきゃいいけど・・・・・」


ジゼルは心配そうに頭を抱え、小さく溜め息をつく。


「た、大変ですね・・・」


リリスが気遣ってジゼルに話し掛ける。けれども、ジゼルは笑って返事を返す。


「そうね。大変かもしれないけど、それでも私は、この生活が好きなの」


ジゼルはだいぶ前からサラと2人暮らしをしていて、炊事、洗濯、掃除などは全部ジゼルがやっているという。


サラは病院で仕事、ジゼルは専業主婦といった感じだ。


「なんかサラさんが娘で、ジゼルさんがお母さんみたいですね」


ジゼルは「主婦一直線」の称号を手に入れた!


リリスは何気なく言ったつもりだったが、嬉しかったのか、ジゼルはポッと顔を赤く染めた。


「お、お母さんだなんて・・・・あ、それよりみんなお腹すいてない?ケーキ切るから、待ってて」


照れを隠しつつ、ジゼルはアニーが持ってきたケーキの箱を開ける。


中にはエクレールラルムパイの姿が見えた。パイの表面に十字が刻まれ、その切り口からカスタードを覗かせている。


「こっ・・・・これが1日10個限定の幻のスウィーツ・・・・」


ノーマが目を輝かせる。予約しないとお目にかかれない、幻がそこにあった。


「ん〜、いい匂い♪」


ほんのりと甘いカスタードの匂いが、リリスの鼻をくすぐる。


「じゃあ私、紅茶入れますね」


アニーとジゼルはキッチンへ行き、早速ティータイムの準備を始めた。


ジゼルはケーキを切り分け、切ったものを皿に乗せていく。


「あ〜、楽しみぃ〜♪」


ノーマは足をバタバタさせながら、ケーキを待ち通しにしている。


ガサガサッ。


床を這いずるような音が、突然室内に響いた。その音は段々と大きくなっていく。


―――――ガシッ!!


「ひっ」


何かがノーマの足を掴む。背筋がぞっと凍りつき、ノーマは恐る恐る下に目をやった。


「・・・・私も・・・ケーキ・・・・食べたい・・・・」


その正体はサラだった。ケーキの匂いを嗅ぎ付けて寝室から這ってきたのか、前髪がダラリと垂れ込んでいる。


まるでホラー映画のようで、不気味。


「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!」


ノーマは絶叫して、イスから勢いよく落ちてしまった。


「ノーマ、大丈夫!?」


リリスが慌てて駆け寄り、キッチンにいたジゼルとアニーも駆けつける。


「・・・・・・・・・あぅ〜」


ノーマは目をぐるぐる回し、泡を吹いて気絶してしまっていた。


「サラ、心配しなくてもケーキはちゃんと取ってあるから」


ジゼルはサラの身体を抱き起こす。


「・・・ケーキ・・・・」


もはやサラには、ケーキしか頭にないようだ。なんという恐ろしいケーキへの執着心。


ジゼルはそんなサラを見て何を思ったのか、思わず笑みを浮かべていた。


「じゃあ、一緒に食べようか」


ジゼルはケーキと紅茶を並べ、ようやくティータイム。リリスたちはイスに座り、フォークを手に取る。


「それじゃ、いっただっきま〜す♪」


リリスはさっそくケーキを口に頬張った。


さくっとしたパイ生地の歯ごたえと、とろっとしたカスタードの甘みが口いっぱいに広がっていく。


「ん〜〜〜〜っ!おいし〜♪」


リリスがケーキの味に大満足。


「やばい、美味しすぎる!幸せ〜♪」


ノーマは天にも上るような気分になり、足をバタバタさせていた。


「さすが幻の限定スウィーツ・・・・・最高です♪」


アニーはケーキを食べて思わずうっとり。


「はい、サラ。口を開けて」


「あ〜ん・・・・」


ジゼルはケーキをすくい、サラの口に入れる。ケーキを食べたおかげか、サラの顔色が少しだけ良くなった。


「院長、少し元気になったみたいでよかったです」


アニーも元気なサラを見てほっと一安心する。


「うん、おかげさまで。あっ、そういえば今日会議の打ち合わせがあったんだ・・・・」


サラはイスから立ち上がり、身体をふらつかせながら部屋へ戻っていく。


「サラ、無理はしちゃダメ。風邪もまだ治りきってないのに」


ジゼルの声が届いていないのか、サラは部屋に入ってしまった。僅か数分後、着替えを終えたサラが戻ってくる。


「よし、それじゃアニー・・・・会議に行くよー」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


全員、無言。


サラはパジャマの上にコートを羽織り、頭には何故か白衣を被っているという意味の分からない服装だった。


おまけに手に持っているの会議に使う資料・・・・ではなく、ケーキ屋のパンフレット。


「・・・・院長。会議の打ち合わせは私が代理で出ますって、病院の方に言っておきましたから」


だからゆっくり休んでください、とアニーは告げる。こんな状態のサラを連れては行けない。


「大丈夫・・・大丈夫―――」


「サラ、お願いだから寝てようね」


ジゼルは再び、サラを寝室へ強制連行した。


「それじゃあ私、会議に行ってきますから。院長をよろしくお願いします」


アニーはカバンを持ち、急いで病院に向かっていった。


「・・・・どうする?あたしたち」


すっかりケーキを完食したノーマはすることがなくなり、途方にくれる。


「・・・・・・はぁ」


ジゼルがまた溜め息を漏らして戻ってきた。その表情からは、疲れの色が出てきている。


「あのジゼルさん。何か手伝うこと、ないですか?」


そんなジゼルの様子を察し、リリスが声をかける。


「気にしないで。私なら大丈夫だから」


「で、でも・・・・・」


「その気持ちだけで嬉しいわ。ありがとう」


疲れを悟られないように振る舞うジゼルだが、今にも倒れてしまいそうな状態で、とても大丈夫そうには見えない。


見兼ねたリリスとノーマはジゼルに寄り添い、ソファに座らせた。


「やっぱり、ジゼルさんは休んでいたほうがいいですよ。後は私たちがやりますから」


「・・・・・お願いしていいかしら?」


はい、とリリスは頷く。ジゼルは昨日からサラの看病で一睡もしていないらしい。


「で、あたしたち何すればいいの?」


と、ノーマ。


「・・・・・・洗濯物の取り込みと、夕飯の支度・・・・あ、あとサラの看病をお願い」


ジゼルはソファに横になると、あれこれやることを説明する。


「わかりました。ノーマ、さっそく始めるよ!」


「おっけー♪」


2人は早速取りかかった。まずは洗濯物の取り込みから。ベランダに行き、洗濯物を取り込んでいく。


ビリッ。


「う」


ノーマが干してあった洋服を引っ張ると、肩の部分が少し破けてしまった。気まずい表情で横たわるジゼルを見る。


「べ、別にかまわないから。そんなの、縫い直せばいいだけだし・・・・」


気にしなくていいからと、ジゼルは言った。


(ああ、私のブラウスが・・・)


しかし、内心は物凄く気にしていた。


2人は取り込みを終え、次は夕飯の支度。リリスはテーブルの下に置いてあった食材の入った袋の中身を確認する。


「えっと、ニンジンとじゃがいも、玉ねぎ、鶏肉、牛乳・・・・・シチューですか?」


ジゼルはこくっと頷く。


「シチューは私の得意料理なんです、任せてください!」


リリスは自分のカバンからマイエプロンを取り出す。常に入れているようだ。


さっそくエプロンを身につけ、調理に取りかかるリリス。制服にエプロン姿がよく似合っている。


コンコンコンコン。


リリスは見事な包丁捌きで、野菜を切っていく。ノーマも隣りでリリスのお手伝い。


(・・・・・す、すごい・・・・)


ジゼルはソファに横たわりながら2人の様子を伺う。これなら安心だと、顔を綻ばせるジゼル。


「ぎゃーっ!ゴキブリ!」


台所にゴキブリが現れ、ノーマが叫び出す。


「えっ!?ど、どこ?」


「うわっ、こっち来ないで!グレイ――――――」


「ちょっとノーマ!こんなことで爪術使わないで・・・・・わっ、お鍋が焦げる〜!」


ゴキブリが出て大パニック。あたふたするリリスとノーマ。


(不安になってきた・・・)


さっきまでのジゼルの安心感が、一気に消え失せた。


(・・・眠い・・・・もう・・・・)


今までの疲れがどっと押し寄せ、ジゼルは深い眠りへと落ちていった。




グツグツグツ・・・・・。


「――――――ん」


お鍋の煮える音で、ジゼルは目を覚ました。


「あ・・・・いけない、私・・・」


ジゼルはソファに横になり、そのまま眠ってしまった事を思い出す。体には毛布がかけられていた。


一体どれだけ眠っていたのだろう、外はもう日が沈んで真っ暗だった。


「目、覚めたみたいですね」


リリスがコーヒーカップを2つ持ってやってくる。


「どうぞ、暖まりますよ」


「あ、ありがとう」


ジゼルはリリスからコーヒーを受け取り、一口飲む。体が芯から温まっていくのを感じた。


リリスはお鍋の火を止めて、ジゼルの隣りに座る。


「夕飯は作っておきましたから、適当に食べてくださいね。ジゼルさんたちのお口に合うかどうかは分かりませんけど」


そう言ってリリスは苦笑いした。


「ごめんなさい、色々と手伝わせちゃって・・・・」


「いいんです。困っている人を助けるのが、エルロン家の伝統ですから」


リリスは微笑、コーヒーを啜る。


「・・・・・あれ、もう1人の子は?」


そういえば、ノーマの姿がなかった。


「こっちに来てください」


リリスは立ち上がると、ジゼルをサラの部屋へと連れて行く。


部屋に入ると、サラが寝ているベッドの傍らでノーマがすやすやと眠っていた。


「すこ〜・・・・」


看病をしていて疲れたのだろう、ノーマはとても気持ちよさそうな表情をして、今は夢の中。


「ノーマ、ずっとサラさんの看病をしててくれたんですよ」


「本当に何から何まで・・・・・ありがとう」


感謝してもしきれないくらい、リリスたちには本当に助かったとジゼルは言った。


2人はノーマとサラを起こさないよう、そっと部屋を出ていく。


「あなた・・・・リリスって言ったわね」


ジゼルがリリスを呼び止める。


「あ、はい」


「ベランダに行かない?夜景がとても綺麗なの」


ジゼルに連れられて、リリスはベランダに出る。そこには街の明かりで彩られた、ミンツの夜景がそこにあった。


「すごい・・・きれい・・・・」


リリスは絶景を前に、目を輝かせている。


「綺麗でしょ?このマンションの、絶景スポットなのよ」


ジゼルはそう言って、外の景色へと視線を向けた。


そんなジゼルの横顔は綺麗で、とても優雅だった。思わずリリスは見とれてしまう。


すると視線に気付いたのか、ジゼルはリリスの方へと向き直った。


「・・・・?私の顔に、何かついてる?」


「あ、いえ・・・・・そういえば、ジゼルさんはサラさんといつから一緒に住んでるんですか?」


何となく気まずかったので、話題を変えるリリス。すると、ジゼルはどこか懐かしそうに、夜空を見上げた。


「私がサラと暮らし始めたのは・・・・2年くらいも前の話よ」


ジゼルは冷めたコーヒーを少しだけ飲み、話を続ける。


「私はね、サラの病院の患者だったの」


「え、そうなんですか?」


「えぇ。私、昔いた世界で大怪我をして・・・・瀕死の状態だったところを、サラに助けられたの」


自分のいた世界で重傷を負い、その時に救助活動に来ていたサラに救われたとジゼルは語る。


「今私がこうして生きていられるのも、サラのおかげなの。だから、サラには早く元気になってもらいたい」


早く元気になって、自分だけでなくもっと多くの人々を救ってほしいという、ジゼルの願いだった。


「きっと良くなりますよ」


リリスが夜景を眺めながら言った。ジゼルが夜も眠らずサラを看病していた気持ちが、分かった気がした。


「え・・・?」


「だって、ジゼルさんっていう”お母さん”がいるじゃないですか」


「・・・・・・そうね」


ジゼルは微笑んだ。柔らかくて、優しい笑顔だった。


ガチャッ。


玄関が開く音がして、振り向くと会議を終えたアニーが帰ってきていた。


「すみません、会議が長引いて遅くなりました」


アニーは大量の書類を抱え、疲れきった表情を浮かべている。


「お疲れ様、アニー」


リリスとジゼルがアニーを出迎えてくれる。


「あの、院長の具合はどうですか?」


「おかげさまで。だいぶ良くなったみたい」


リリスとノーマがいてくれたおかげで助かった、とジゼルは言う。


「そうですか、良かった。あれ、ノーマさんは?」


「ノーマなら、サラさんの看病で疲れて寝ちゃってる・・・・あ、もうこんな時間。ノーマ起こしてくるね!」


リリスはノーマを起こしにサラの部屋へと向かっていった。


「いいお友達を持ったわね、アニー」


ジゼルがボソッと呟く。


「・・・・・・はい。私の大切な、かけがえのない友達ですから」


大切な友達、大切な存在。ジゼルはそんなリリスたちがうらやましいと、心から思ったのだった。




―――――――寮へと帰る道で。


「すか〜・・・・・・」


いくら呼びかけてもノーマは起きる気配がなかったので、仕方なくリリスはノーマをおぶりながらアニーと歩いていた。


「もう!ノーマったら全然起きないんだから。まるで私のお兄ちゃんみたい」


“死者の目覚め”で起こそうと一度は考えたリリスだったが、他の住人に迷惑がかかるのでやめた。


「リリスさん、今日は色々と大変でしたね。ジゼルさんも本当に助かったって言ってましたよ」


と、アニー。リリスも喜んでもらえてよかったと、満足げに笑う。


「あっ、それより聞いてよ!ノーマがゴキブリに爪術使おうとしてさ・・・・・」


今日も一日、色々なことがあった。リリスとアニーは会話を弾ませながら、寮へと戻っていった。




次の日の放課後。リリス、アニーはノーマの部屋にいた。何故かと言うと―――――。


「げほっ!げほっ!!げほっ!!!」


ノーマは激しく咳き込みながら、ベッドに横たわっていた。


「ね、ねぇアニー。これってやっぱり・・・・・」


「・・・・えぇ。院長の風邪が、うつってますね」


サラを看病していた時にうつったのだろう。食欲はあるが、ノーマは完全にダウンしてしまっていた。


「ってことはもしかして、ジゼルさんも・・・・」




一方その頃サラの家では。


「こほっ・・・・・うっ、こほっ・・・・・」


ジゼルは見事なまでに風邪をうつされていた。ベッドに寝込み、激しく咳き込んでいる。


「ジゼル大丈夫!?待ってて、今お粥作るからっ!」


サラは台所に立ち、フライパンと泡立て器を構えて、早速料理に取り掛かろうとしていた。


材料は牛肉、アマンゴ、豆腐、あんこ、海苔・・・とにかく色々と並べられている。


(サラ、道具と食材が何一つ違う!)


と、叫びたいのは山々だが、咳き込んでいて伝える事ができない。


「任せといてジゼル!“院長特製スタミナ粥”を食べれば、きっと元気になるわ!」


サラは鍋に適当に食材を投入し、塩コショウ、さらに砂糖と味噌で味付けをしていく。ジゼルはこの場から逃げたくなった。


「あれ?そういえば、お粥ってお米必要だよね・・・・忘れてたわ。あっ、パンで代用すればいっか」


私って頭いい〜と言って、戸棚からパンを探し始める。


(神様・・・・どうか、私を助けて・・・・)


ジゼルは祈った。どうか早く風邪が治りますように、と。そして後日、ジゼルが病院に搬送されたことは、言うまでもない。




終わり







☆おまけスキット☆



4:死者の目覚め



サラ:「くぅ・・・・くぅー・・・・・・・」

ジゼル:「サラ、もう朝だけど」

サラ:「・・・・まだ夜です・・・夢の中でだけど」

ジゼル:「仕事の時間に遅れるわ」

サラ:「実は風邪がまだ治っていません・・・・だから、今日はお休みということで」

ジゼル:(困った。どうやって起こそう・・・・・・あっ)

――――“リリス:「死者の目覚め」って言うんですけど、兄を起こすときによく使ってたんです。寝ぼすけの人には物凄く聞くんですよ”

ジゼル:(・・・・・試してみよう)

サラ:「くぉー・・・・わたし、そんなにもう、食べられない・・・」

ジゼル:「確か、おたまとフライパンを使って・・・・こう、だったかな・・・・・よし・・・・」

ジゼル:「秘技・死者の目覚めっ!!!」

ガンガンガンガンガンガンガンッ!!!!!

ジゼル:「・・・・・・・な、なんて耳障りなの。でも、これでサラも起きてくれたはず」

サラ:「・・・・・・・・・・・・・・・・」

ジゼル:「・・・・サラ?」

サラ:「・・・・・・・・・・・・ガクッ」

ジゼル:「気絶してる!?サラ、起きて!しっかりっ!!」

サラ:「お・・・起きてる。起きてるから大丈夫・・・・・・」

ジゼル:「・・・・・そう、よかった。朝ご飯、もう用意できてるから」

サラ:「・・・・・ふぁい、今、いきます・・・」

サラ:(あのリリスって子・・・・なんて恐ろしい技を持っているのかしら)

ジゼル:(あのリリスって子・・・・なんて便利な技を持っているのかしら)

ジゼルは「死者の目覚め」を習得した!






Prologue〜そして私たちは出会った〜・完


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