Tales of Another Story My Best Friend〜最高の友達〜



My Best Friend〜最高の友達〜




――――固く結ばれた、2人の友情の絆。



1.しいな vs 転校生!


ここはミンツ学園。多くの大陸から生徒たちが通う、高校および大学院だ。


「よいしょ・・・・っと」


大量の書物を運び、長い廊下を歩いているのはしいな。授業の後にフィアネスに呼ばれ、手伝いを頼まれていた。


「それにしても重いね、これ。一体何に使うんだろ・・・・・」


書物が重いせいか、足元がふらついて、うまく前に進めない。


無理に全部持っていこうとしたのがまずかったと、今更ながらしいなは後悔した。


と、その時だった。


ドゴッ!!!


突然、背中に強い衝撃が走る。しいなはバランスを崩し、持っていた大量の書物がぐらぐらと揺れ動く。


「わ、わ、わ、・・・ちょっと・・・」


バランスを保とうとするが間に合わず、しいなはその場で転倒した。廊下に書物がばら撒かれ、本についていた埃が舞う。


「いたたっ・・・・」


転倒して腰を打ったのか、痛めた腰を擦るしいな。


「うわっ・・・本が・・・・」


しいなの視界には、悲惨な光景が広がっている。持ち運んだ書物が、埃をたてながら廊下に散らばっていた。


背中に感じた衝撃からして、きっと誰かがぶつかってきたのだろう。ひとこと言ってやらなきゃと思い、その相手を探す。


「・・・・・・・あっ」


そのすぐ側に、この惨状を引き起こした元凶がそこにいた。


「いったぁ・・・・」


ピンクの髪の色をした、ポニーテールの女生徒だった。尻餅をついたのか、お尻を痛そうに擦っていた。


「あ、あんた・・・・大丈夫かい?」


あまりにも痛そうにしていたので、心配したしいなが声をかける。すると女生徒はしいなを睨み付け、文句を飛ばしてきた。


「ちょっと、どこ見て歩いてんのよ!?お尻打っちゃったじゃん!!」


「はあっ!?」


ぶつかってきた上に逆ギレされ、ムッとするしいな。心配した自分が馬鹿みたいに思える。


「なんだい、ぶつかってきたのはそっちじゃないか!」


「そんなの、あんたがあたしの前にいるからいけないんでしょ!」


あまりに理屈の通らない、女生徒の言い分。さすがに頭にきたのか、しいなは立ち上がって女生徒を睨み付けた。


「ふざけんじゃないよ。だったらあんたが、あたしの後ろを歩かなきゃいいんだよ!」


「なっ・・・言ったわね、このムダ乳女っ!」


女生徒も立ち上がり、互いに睨み合いを続ける2人。視線と視線が、火花をバチバチと撒き散らしている。


「・・・・・あっ」


そこで、しいなはハッと我に返った。こんな事をしている場合ではない。


「そういや、先生の手伝いの途中だった・・・・」


女生徒との睨み合いを中断して、しいなは廊下に散乱してしまった書物をかき集め始めた。


「ほら、あんたも手伝うんだよ!」


連帯責任だよ、と女生徒に強制するしいな。女生徒はとても嫌そうな顔をしたが、無視するのも後味が悪いので渋々手伝う事に。


「・・・・・ちゃちゃっとやっちゃえばいいんでしょ?ちょっと待ってて」


突然、魔術の詠唱を始める女生徒。女生徒の周囲に翡翠色の魔方陣が浮かび上がる。


「・・・・へっ?ちょ、ちょっと待った!あんた何を――――」


しいなが呼び止めようとした時には、もう既に魔術が発動していた。


「――――――ウォールウインドっ!!」


――――ビュウウウゥゥゥゥゥゥ!


廊下に幾つもの小さな竜巻が巻き起こる。加減しているのだろう、威力はかなり抑制されていた。


竜巻は廊下に散らばった本を、一瞬にして巻き上げていく。


「よし、これでおっけ〜♪」


本は綺麗に重ねられ、しいなの手元に届けられる・・・というのが女生徒の展開だった。


しかし現実はというと、


「・・・・・・あれ?」


確かに、しいなの手元に本は届いた。ページがバラバラになった状態で。


「・・・・・・・・・・・」


雪のように降り注ぐ、本の切れ端。しいなはただ呆然と、その光景を眺めていた。


魔術の威力が強かったのか、それとも本が古くてボロボロだったのか。どちらにしろ、状況が悪化した事に変わりはない。


「・・・・・・・あー」


気まずい空気が流れる。なんて声をかければいいのか・・・女生徒は言葉に詰まった。


「・・・・・あ、あんたねぇ・・・・」


しいなは怒りで身体を震わせながら、掌に落ちた本の切れ端を握りつぶす。しいなの怒りはもう爆発寸前。


「あ・・・まあ、なんていうか・・・・・・・とりあえず、そういうことでっ!」


身の危険を感じた女生徒は、その場から慌てて逃げていった。


「あっ、こら待てっ!!」


女生徒はどこから取り出したのか箒に跨り、廊下の奥へ消えていく。当然、しいなの声が届くことはなかった。


「・・・・・・・・・・・」


目の前に広がる、大量の本の切れ端。これなら一人で済ませた方がよかったと、今更ながら後悔するしいなだった。




その翌日。


「・・・・・・・・・」


しいなはいつになく不機嫌だった。昨日の女生徒のことが忘れられず、表情は苛立ちで満ちている。


「・・・・ねぇノーマ。しいな、どうしちゃったのかな?」


しいなに聞こえないように、こっそりとノーマに耳打ちするリリス。


「昨日の夜からあんな感じだったよねぇ・・・何かあったのかな。あっ、もしかして失恋とか」


様々な憶測をたてるノーマ。聞こえていたのか、しいながわざとらしく咳払いをした。


「生憎、そんなんじゃないから」


言って、しいなは溜め息をつく。今はノーマの冗談に突っ込めるほどの元気はなかった。


あの後、本はしいな一人で全て片付けた。時間がかかった上、本をダメにした事でフィアネスからは説教を受けるはめに。


しいなにとって、散々な一日になってしまった。


(あいつ、今度会ったら・・・・)


今度会ったらただじゃおかない・・・・怒りで力がこもり、しいなの持っていたペンが真っ二つに折れる。


(今日のしいな、怖い・・・・)


リリスたちは理由を尋ねたかったが、今のしいなに話し掛けるほどの勇気はなかった。


しばらくしてチャイムが鳴り、フィアネスが教室に入ってくる。


「おはようみんな。突然だけど、今日は授業を始める前に転校生を紹介します」


フィアネスの一言に、生徒たちがざわめく。


「さぁ、入って」


教室の扉が開き、転校生が入ってくる。入ってきたのは、しいなが昨日遭遇したポニーテールの女生徒だった。


「ども、アーチェ・クラインです。よろしくね♪」


アーチェと名乗った女生徒は、クラスの生徒たちに笑顔で挨拶する。


「あ、アンタ昨日の・・・・!」


しいなは思わず声を上げて、席から立ち上がる。そう、昨日魔術で本をバラした挙句に逃走を図った張本人だった。


「げっ」


しいなの存在に気づき、ばつの悪そうな表情を浮かべるアーチェ。


「あれ、しぃちゃん知り合い?」


ノーマが気になって声をかけるも、しいなに受け答える余裕はなかった。


「あ、あんたこのクラスだったんだ・・・」


「あの時はよくも・・・・!」


身を乗り出しそうな勢いで、アーチェを睨み付けて威嚇するしいな。


「あら、二人とも知り合いなの?」


フィアネスが尋ねると、しいなはアーチェを指差して訴える。


「先生アイツです!昨日、本をバラバラにした元凶は!」


元凶であるアーチェを前に、いても立ってもいられない様子だった。するとアーチェは平然とした態度を装い、


「あ、あんたまだ根に持ってたわけ?おー、こわこわ。死んだら化けて出てきそうだよ」


すっかり開き直ってしまったのだった。さらには挑発する始末。


「はあっ!?言ってくれるじゃないのさ、このペッタンコッ!!」


しいなのペッタンコという言葉に反応したのか、アーチェの態度が一変する。


「ぺ、ペッタンコ・・・言ったわねぇっ!」


気にしていた事を突かれて、アーチェもしいなを睨み返した。2人の間でいがみ合いが始まる。


「こら、2人ともやめなさい。とりあえずアーチェ、席について。場所は・・・・うっ」


思わず、フィアネスは言葉を詰まらせた。気まずそうに表情を歪ませながら、教室を見渡している。


そして、


「場所は・・・・しいなの、隣りよ」


空いている席がそこしかなかったのだろう、フィアネスはしいなの隣の空席を指差した。


「「えっ」」


声を揃えるしいなとアーチェ。死の宣告を受けたように、表情が固まる。


「せ、先生・・・マジ?」


アーチェが再び確認するが、フィアネスはそこしかないと断言した。


「・・・・・・はぁ」


アーチェは肩を落とし、大きく溜め息をつく。嫌そうにしいなの隣の席に向かい、ドサッと乱暴に座りこんだ。


「・・・・・・・・」


「・・・・・・・・」


しいなとアーチェの視線が合う。


「・・・・ふんっ!」


「・・・・ふんっ!」


そして互いに顔を背けた。これからこの席でずっとやっていくのだと思うと、先が思いやられる。


「うわ、なんか険悪なムード」


と、ノーマ。


「後ろから嫌なオーラを感じるよ・・・・」


貧乏クジを引いたかのように、肩を竦めるフレイ。フレイはアーチェとしいなの前の席だ。


「だ、大丈夫大丈夫!きっとその内仲良くなるって・・・・・たぶん」


確信はないが、なるようになるよとリリスは言った。


「・・・・・はぁ」


最悪の席の組み合わせとなってしまい、溜め息をつくしいな。


「ちょっとそこのあんた、一応言っとくけど」


顔を背けたまま、アーチェがしいなに話しかける。


「あたしはしいな、藤林しいなだよ」


「あんたの名前なんかどうでもいいわよ。とにかく、あたしの勉強の邪魔だけはしないでよね」


言い切って、アーチェは鼻を鳴らす。


「こっちのセリフだよ、ばーか」


しいなも言い切って、同じように鼻を鳴らした。


「と・・・・というわけで、みんな仲良くしてあげてね」


きっとどうにかなるだろう・・・・フィアネスは話を切り上げて、すぐに授業を始めた。


(誰がこいつなんかと仲良くするもんか!)


(誰がこいつなんかと仲良くするもんか!)


しいなとアーチェは心の中でそう誓ったのだった。




1時間目が終わり、次の時間は化学の授業。


リリスたちのクラスは全員化学室に移動し、それぞれ3〜4人のグループを作って実験を行う事に。


「ねぇ、リリっち。なんでこうなっちゃうかな」


ノーマは顔をしてリリスに話しかける。ノーマたちの班のグループはノーマ、リリス。


そして・・・・・しいなとアーチェだ。


「まあ・・・・成り行き?」


リリスももう苦笑いするしかなかった。クジで決まってしまった以上、このままの班で実験するしかない。


しいなとアーチェの様子はというと、互いに顔を合わせないまま、ずっと横を向いている。


「はい、みんな。これからエリクシールの調合実験を始めます。中には危険な薬品もあるので、気をつけて扱ってね」


化学の授業を担当するのはアスカ・ストレイア。


いつもは保健室にいる先生だが、化学の非常勤講師として呼ばれることもあるという。


さらさらの長い黒髪。男女問わず視線を釘付けにする、白衣が似合うナイスバディの持ち主。まさに“大人の女性”である。


「ちなみに“よそ見”してたら、実験失敗するわよ?」


その一言で、アスカの身体に視線を注いでいた男子たちがビクッと身体を震わせた。


「ふふ・・・それじゃあ実験開始♪分からないところがあったら、私を呼んでね」


アスカの合図で、調合実験が一斉にスタートした。


「じゃ、じゃあ早速いってみよー!」


ノーマが自分たちの班を盛り上げようと気遣う。しいなとアーチェもようやく前を向き、実験の作業を始めた。


すると、隣の班のアニーがリリスに声をかける。


「リリスさん、どうですか?あの2人」


「ノーマが気遣ってくれたおかげでなんとかなりそうだけど・・・なんかピリピリしてるんだよね」


と、リリス。今のしいなとアーチェは至って普通だが、返ってそれが怖かった。


(僕・・・・また、この2人の近くに・・・・)


フレイの後ろには、しいなとアーチェの背中があった。なんとも不運な巡り合わせである。


その後、しいなとアーチェは特にケンカもせず、着々と実験の作業を続けていた。


「これとこれを入れて・・・と」


リリスも順調に調合実験を進めていた。ノーマも実験を続けつつ、しいなとアーチェの様子を伺っている。


(とりあえず沈着状態か。このまま何も起きなきゃいいんだけど・・・)


と、思っていた矢先だった。しいなが実験に集中している隙に、アーチェがしいなの膝元にわざと薬品を垂らす。


「ひゃあっ!?」


膝に滴る、緑色の液体。しいなは変な声を上げて、イスから豪快に落ちてしまった。


「あ、ごめんねぇ!手が滑っちゃってぇ・・・」


わざとらしく演技をするアーチェ。しいなは膝にかかった緑色の液体を拭い、アーチェを睨み付けた。


「あんた、今わざとやったでしょ!?」


「人聞きの悪いこと言わないでよねぇ〜。あたしはそんなことしないよ?」


アーチェのしらを切る態度にカチンときて、しいなはアーチェの調合瓶に薬品の中身を全てぶち込んだ。


調合瓶の中の液体が、透明な緑色から一気に群青色へと変色する。


「ちょ・・・ちょっと、何すんのよ!!」


「あぁ、薬品が足りないだろうと思ってねぇ。手伝ってあげたんだよ」


しいなの仕返しに、アーチェも頭にきて机をバンっ!と叩く。


「上等じゃん、あたしにケンカ売る気!?」


「売ってきたのはあんただろ、このペッタンコ!!」


互いに罵り合うしいなとアーチェ。次第に周りの生徒たちも何事かとざわめき始める。


「ふ、2人ともやめなってば!」


ノーマとリリスが止めに入るが、2人は一向に止めようとしない。


「大体あんたはね・・・・・・・あっ」


と、アーチェは自分の調合瓶の異変に気づく。


ブクブク・・・・・。


調合瓶から、大量の泡が吹き出ている。しいなが仕返しに入れた薬品が原因だろう。


「ね、ねぇ・・・・それ、もしかしてヤバくない!?」


ノーマは机から後退っている。


「ちょっとちょっと、どうしたの2人とも」


騒ぎを聞きつけ、アスカがやってくる。するとアスカはアーチェの調合瓶を前にして、


「あら、妙にブクブクいってるわねぇ。まあ実験に失敗はつき物だって言うし、仕方ないわね」


なんともマイペースな発言をするのだった。そんなのん気な事言ってる場合じゃないと、ノーマに突っ込まれる。


「この反応、グリューンリキッドの入れ過ぎね。こういう時は・・・・」


アスカの対応は冷静だった。泡を吹く調合瓶に、手際よく分量を調整しながら薬品を入れていく。


「はい、これでよしっと」


さっきまで吹いていた泡は嘘のように収まり、アーチェの調合瓶はすっかり元通りになった。


これで一安心と思いきや、アスカはその調合瓶の中身を別の容器に移し、蓋を閉めてから軽く横に揺らし始める。


液体が混ざり、次第に色が群青から濃厚な赤へと変色していく。明らかにエリクシールの色ではない。


「う〜ん、やっぱりダメみたい」


しいなが入れた薬品の分量が多すぎて、もはや手遅れだとアーチェに告げる。


「この中身、捨てておいてね。やり直し」


赤い液体の入った瓶をアーチェに渡し、アスカは足りなくなった薬品を取りに薬品室へと歩いていく。


ざわめきが収まり、生徒たちは実験を再開する。何もなくてよかったと、リリスたちもホッと胸を撫で下ろした。


「はい、じゃあこれよろしく」


アーチェはしいなに瓶を押し付けた。


「何であたしが捨てなきゃなんないのさ」


しいなも押し付け返す。


「あんたが薬品入れたからこうなったんでしょ。責任取りなさいよ」


また押し付ける。


「もとあと言えば、あんたがあたしの膝に薬品こぼすからこうなったんじゃないか!」


また押し付け返す。


押し付ける度に中の液体が揺れ、濃厚な赤が瓶の中で沸騰し始めていた。


「ねぇ、何か中身沸騰してない!?」


2人が押し付けている瓶の様子を見て、リリスが立ち上がろうとした時、薬品を調達してきたアスカが戻ってくる。


「おまたせ。それじゃあ、もう一回調合のやり直―――――――」


瞬間、アスカの表情が固まった。その視線の先にはアーチェの失敗した、赤い液体の入った瓶。


中身はかなり沸騰していて、危険な状態にあった。


「貸しなさいっ!」


アスカは血相を変えて、アーチェたちが押し付けていた瓶を取り上げると、窓を開けてその瓶を放り投げた。


瓶は空高く舞い、そしてその直後、


―――――ドオオォォォォォォン!!


大きな音を立てて、大爆発を起こした!まるで、花火が上がったように派手だった。


「ふぅ・・・危ない危ない」


さっきの剣幕はどこへ行ったのやら、アスカはすっかりマイペースモードに戻っていた。


爆発音を聞きつけ、他の教室の窓から生徒たちが顔を覗かせている。


「あ・・・・あはは・・・」


空中で爆発した瓶を目にしたノーマは、すっかり青ざめてしまっていた。


「ちょっと!もう少し遅かったらあたしら確実にバラバラだったじゃん!!」


あたしたちを殺す気!?と、さすがのノーマも怒り出す。


「だ、だってこいつが!」


「だ、だってこいつが!」


互いに責任を押し付けようとするしいなとアーチェ。すると、アスカが2人の間に割って入ってくる。


「はい、そこまで。いい2人とも?私が気付かなかったら、この教室ごと木っ端微塵だったわよ?次からは気をつけること」


アスカにこっぴどく説教され、2人はしゅんと肩を竦めたのだった。


・・・・・だがしいなとアーチェのバトルは、これだけでは終わらなかったのだ。




科学の授業の次は、体育の時間。


今日はクラス対抗でドッジボール。リリスやノーマたちは有意義に身体を動かし、ドッジボールを楽しんでいた。


ただ、2人を除いてだが。


「・・・・・・・・」


「・・・・・・・・」


しいなとアーチェは互いに睨み合ったままだった。おまけに外野に2人、隣り合わせ。


「アーチェ、パス!」


リリスがアーチェに向けてボールを投げ渡す。


アーチェはボールを受け取ると、よそ見しているしいなを見てニヤリと笑い、しいなに向かってボールを投げつけた。


「・・・・っ!?」


投げられたボールが直撃する寸前、しいなはボールをしっかりと受け止めた。


「あっ、ごめんごめん。敵かと思っちゃったぁ」


科学の授業の時と同じように、わざとらしい態度を取るアーチェ。


思いの他しいなの反射神経がよかったのか、アーチェは小さく舌打ちをした。


「このぉ・・・見てなよ」


とりあえず何もせずに、しいなは次の機会を待つことにした。


次第に内野の人数が減っていき、ドッジボールも終盤に差し掛かった頃。


「藤林さん、パスッ!」


他の生徒から、しいなにボールが回ってくる。


(よし・・・・)


ボールを受け取ったしいなは、アーチェの後ろの方向を指差して、


「あっ、アーチェ!あそこに葉っぱ人間がっ!!」


大袈裟にリアクションを取りながら、適当に嘘をついた。


「えっ!?どこどこ!?」


しいなの指差した方向をくまなく探すアーチェ。しかし、そんな奇怪な人間はどこにもいなかった。


「・・・・なによ、そんなヤツどこにも―――――おぶっ!?」


振り返った瞬間、アーチェの顔面にボールが直撃する。アーチェはそのまま、仰向けになって倒れてしまった。


「ごめんねぇ。ボール渡そうと思ったんだけど、ちょっと強すぎちゃったかなぁ」


しいなはわざとらしく笑う。ざまあみろと言わんばかりに。


「・・・・・・や、やったわねぇ!」


アーチェは立ち上がり、近くにあったボール籠の中を、片っ端からしいなに向かって投げつける。


「仕掛けたのはそっちじゃないかっ!!」


しいなも負けじとボールを投げ返す。


投げては投げ返し、投げては投げ返しの繰り返しで、2人は完全に仲間割れ状態だ。もうドッジボールどころじゃない。


「ちょ、ちょっとやめてよ2人とも!!」


リリスやノーマ、他の生徒たちも止めに入り、ようやく2人のケンカは収まったのだった。




お昼の時間がやってくる。


リリス、ノーマ、フレイ、アニーの4人は、カフェテリアで昼食を取っていた。


「リリっち。あの2人、どうにかならないかなぁ」


ノーマはパンに噛り付きながら溜め息をつく。しいなとアーチェの仲介で、だいぶ体力を消耗していた。


「どうかなぁ。ケンカするほど仲がいいって言うけど・・・」


と、リリス。しかし、あの2人のケンカはとても仲が良いようには見えない。


するとそこへ、しいながリリスたちの席へ昼食を持ってやってくる。


それと同時にアーチェもリリスたちの席へとやってきて、しいなとばったり鉢合わせする。


「「あっ」」


同時に声を上げるしいなとアーチェ。1秒もしないうちに2人はそっぽを向くと、フレイを挟むようにして席に着いた。


(・・・・・今日は、きっと厄日だ)


立て続けに災難に襲われるフレイ。食欲が一気に落ちる。


「リリスさん・・・・ここの席だけ空気が重いと思うのは、私だけでしょうか」


アニーが小声でリリスに告げる。確かに、ひどく重い。


(この2人、どうにかならないのかな・・・・)


対立するしいなとアーチェ。またケンカが続くと思うと、先が思いやられるリリスたちなのだった。




次の日の朝。


しいなは朝早く登校していた。いつもならリリスたちと待ち合わせして行くのだが、そんな気分にはなれなかった。


もうこれ以上、個人的なケンカで迷惑はかけられない。昨日の昼食の時にそう決めたのだった。


「・・・・・・あ」


その途中で、アーチェとばったり出くわした。


(何で、こいつが・・・まあ、いいや。相手にするのはやめよう)


ケンカになった挙句、遅刻するのは目に見えている。しいなは無視して、早歩きでアーチェを追い抜いて学園へ向かった。


それが気に食わなかったのか、アーチェも早歩きでしいなを追い抜いた。


(こいつ・・・・!)


しいなも負けじと速度を上げ、アーチェをまた追い抜く。


その度、互いに追い抜かれては追い抜き、また追い抜かれてはまた追い抜き・・・2人ともリードを譲らない。


「ちょっと、ついてこないでよ!」


アーチェはしいなの身体を押し出すように、ぐいぐいと詰め寄ってくる。


「それはこっちのセリフだよ!」


しいなもアーチェを押し出すように、ぐいぐいと身体を詰める。


次第に2人は早歩きから走りへと変わり、全力でと学園へ疾走し始めた。


「くっ付かないでよムダ乳女っ!」


「黙れペッタンコッ!」


「これからが成長期なのっ!」


「はっ、一生来ないだろうねっ!」


「い、言ったわねっ!」


罵声を何度も交わしながら、2人は突っ走り続け、そして同時に学園の入り口へと飛び込んだ。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!」


2人は息を切らし、大の字になって倒れて込む。


心臓がリズミカルに脈を打っている。2人の体力はもう底を付いていた。


「あら、誰かと思えば仲の良い2人組さんじゃない」


仰向けになっている2人の顔を覗き込むようにして、フィアネスとアスカがそこに立っていた。


しかし、2人とも力尽来ているため、とても話せるような状態じゃない。


しばらく間を置いてから、しいなが話しかける。


「はぁ・・・はぁ・・・先生、今日の授業は・・・はぁ・・・はぁ、何でしたっけ?」


途切れ途切れに言葉を伝えるしいな。すると、アスカとフィアネスは顔を合わせて、くすっと笑いあった。


「今日は、学校お休みよ」


言ってなかったっけ、とフィアネス。


「学校は・・・」


「お休み・・・?」


呆気に取られ、しいなとアーチェは拍子の抜けたような声を出す。


「そう・・・・だったっけ?」


アーチェに尋ねられる。しかし、思い出せない。しいなは自分の記憶を辿ってみた。


・・・・・・・・・・・・・・・。


「あ」


ふと、しいなは思い出す。昨日のホームルームで、フィアネスから明日は休校だと告げられていたのだ。


「忘れてた」


完全にその事を忘れていた2人。そんな2人を見て、アスカが微笑む。


「本当に仲がいいのね、先生羨ましいわ・・・・あっ。フィアネス先生、そろそろ行かないと」


「そうね。それじゃあまた明日ね、2人とも」


言って、フィアネスとアスカは学園を後にした。


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


勘違いをして学園へ来てしまった2人。2人はただ呆然と天井を眺めている。


「あんたって結構ドジなんだね」


ぼそっと、呟くように言うアーチェ。


「あんたこそ」


しいなも同じように呟く。2人は互いに顔を合わせ、しばらく見つめ合う。そして、


「・・・・・・く、くく」


「・・・・あは、はは」


2人の口から、笑いが漏れる。ついに堪えらなくなり、噴き出すようにして大笑いした。


「あっ・・・ははははははははははっ!なんかさ、あたしたちって似てるね!」


腹を抱えて、アーチェは笑い出す。


「ほんとだよ、バカみたい!」


涙が出るくらいに、しいなは笑い転げている。2人はしばらく、声が枯れるくらい笑い続けた。


「・・・・じゃあ、帰ろっか。しいな」


アーチェは立ち上がって、しいなに手を差し伸べる。


「うん、そうだね。アーチェ!」


手を取り合い、互いに笑顔を交わす。2人が初めて名前を呼び合った瞬間だった。




次の日の朝。


リリスたちはいつものように寮の前で待ち合わせ。


いるのはリリス、フレイ、コロネ、アニー、ノーマ。しいなとアーチェだけが、まだ来ていない。


「 お そ い 」


腕を組み、コロネはアーチェとしいなが来るのを待ち続けていた。


「もうすぐチャイムが鳴っちゃうじゃない・・・・遅刻したらただじゃおかないんだから」


時計を何度も確認しながら、小さくため息をつくコロネ。


「もしかして、途中でバッタリ出くわしてケンカしてるのかなぁ〜・・・・」


いい加減にして欲しいよと、ノーマは肩を落とす。ケンカが怒る度に、ノーマやリリスたちの疲労は募るばかりだった。


そしてしばらくして、


「遅くなってゴメ〜ンっ!」


ようやく寮から出てきたのは、アーチェだった。その後ろには、何としいなもいる。


「いやぁ〜、しいなの髪梳かしてたら遅くなっちゃってさ」


と、アーチェは笑う。しいなは無造作に結った髪型からストレートになり、すっかりイメージチェンジしていた。


「なんか、ちょっと変な感じだよ・・・・」


いつもと違う髪型に慣れていないのか、自分の髪を弄りながら難しそうな顔をするしいな。


・・・・・・・・・・・・・。


アーチェとしいな以外、全員言葉を詰まらせていた。


それはしいなの髪型に対してではなく、しいなとアーチェが楽しそうに一緒にいるという事実だった。


「・・・・・2人とも、すっかり仲良くなってませんか?」


アニーが尋ねると、しいなとアーチェはああ、と言って少し恥ずかしそうに笑う。


「まぁ、いろいろとね」


説明しづらいのか、あははと笑って誤魔化すアーチェ。


「気がついたら、こうなってたのかな」


照れ笑いしながら、しいなはアーチェと肩を並べている。転校してきた時とは有り得ない光景が、ここにあった。


「な、何がどうなったらそうなっちゃうわけ!?」


この前までケンカしてた2人が、髪を梳かす仲まで発展・・・・現状を受け入れられないノーマ。


「で、でもいいじゃない!とりあえず仲良くなったんだし、これで万事解決だよ」


と、リリス。2人の仲が良くなり、これでケンカすることもなくなるだろう。


「仲良くなったのはいいけど・・・時間、もうないよ」


現実に引き戻すかのように、フレイが時計を指差していた。コロネの顔が真っ青になる。


「うわああああああああああああ、もうこんな時間!?私たち、アンタたちを待ってたんだからね!!!」


さっさと行くわよ、と先頭を切って駆け出すコロネ。続いてリリスたちも学園へ向けて走り出す。


こうして仲良くなったしいなとアーチェ。激しいぶつかり合いの末に、固い友情が芽生えた2人なのだった。


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