Tales of Another Story My Best Friend〜最高の友達〜




2.突然の別れ


アーチェが転校してきてから1週間経ったある日のこと。


今日はリリスたち7人で、フレイの部屋でアーチェの歓迎会が始まろうとしていた。


男子は女子寮に入ることは原則として許されてはいないが、女子だけは男子寮に出入りできることになっている。


結論として、場所はフレイの部屋が一番適切だった。


(理不尽だ、こんな校則)


と、内心フレイは思いつつも、リリスたちが自分の部屋に集まるのは、結構嬉しかったりするのだった。


「それじゃ、アーチェがやってきた事と、しいなと仲直りした事を祝って―――――」


リリスが音頭を取り、ジュースの入ったコップを持って乾杯の合図。そして、


「「「かんぱ〜いっ!!!」」」


全員一斉にコップを掲げて、アーチェを祝福した。アーチェは照れ笑いしながらはにかんでいる。


「んじゃあ、今日は飲むわよ〜!!」


やけにテンションの高いコロネ。片手にはどこから持ってきたのか、高そうなワインボトル。飲酒がバレたらただではすまない。


「ちょ、ちょっと・・・・あんまりうるさくしたら周りの部屋に響いちゃうよ」


歓迎会とはいえ、あまり羽目を外すと周囲の部屋の住人に迷惑がかかる。もちろん、その苦情を受けるのは全部フレイだ。


「何言ってるの。男なんだから、いちいち小さい事は考えない!」


言って、コロネはフレイの肩に腕を回し、フレイの空のコップに強引にワインを注いだ。


「ほら、さっさとアンタも飲むっ!」


「・・・・・・・・・・・」


いらない・・・・・とは言えず、フレイは渋々ワインに口をつけた。


リリスたちも飲んでは騒ぎ、話に花を咲かせている。


「そういえば、アーチェはどっから転校してきたんだい?」


しいながジュースに口をつけながらアーチェに尋ねる。するとアーチェは難しそうな顔をして答えた。


「ん〜・・・・転校って言うか、連れてこられたって感じかなぁ」


アーチェの話では、フィアネスが突然家に訪問にやってきて、学園の話を持ちかけたのだと言う。


アーチェは学校には通っていなかったらしく、入学式の時期も過ぎてしまっていたので、転校の方が都合がいいのだとか。


「あたし一回断ったんだけどさ、そしたら急に豹変しちゃって・・・・で、気がついたら頷いてたってわけ」


まるで別人だったとアーチェは語る。後日その事を聞き出すも、フィアネスは全く覚えていなかったらしい。


「でも、来てよかったなって思ってる。こうしてみんなと友達になれたことだしさ☆」


言って、アーチェはしいなにウインクする。しいなは少しだけ照れくさそうに、それでも笑顔で返事を返したのだった。


「ちょっと、そこの2人っ!!!」


コロネがアーチェとしいなの肩に腕を回し、ぐいっと自分の顔に引き寄せてきた。


「な〜にいい感じになっちゃってんの・・・・?女の子同士でいちゃいちゃ、いやらしい」


コロネの顔は真っ赤で、ワインを飲んですっかり出来上がってしまっていた。終いにはボトルでラッパ飲みする始末。


「あんた・・・・・ちょっと飲み過ぎじゃないのかい?」


心配してしいなは止めるように言ったが、今のコロネに何を言っても無駄だった。


「甘く見ないでよね!私、けっこうお酒には強いんだからっ!!」


あくまで平常を装うコロネだが、足下はふらついていて、とても大丈夫そうには見えなかった。


「何か叫びたくなってきたわ・・・・・」


するとコロネは部屋の窓を開けて、何やら奇怪な言葉を叫ぼうとしたが、慌ててフレイやノーマたちが止めに入った。


これ以上飲み続けたら何をするか分からない。周囲に迷惑どころか、飲酒が発覚してさらに大変なことになる。


「そろそろお開きにする?何かコロロン、やばいみたいだし」


ノーマは酔い潰れかかっているコロネの肩を掴み、身体を揺さぶってアピールする。遊んでいるようにしか見えない。


「そうですね。あまり長居するとフレイさんにも悪いし」


と、アニー。いつの間にか日は沈み、外はすっかり暗くなっていた。


「じゃあ、後は私たちとフレイで後片付けしておくから、コロネを連れて先に行っててよ」


先生には見つからないようにね、とリリス。飲み散らかした分を、そのままフレイだけに任すのは酷だった。


リリス、ノーマ、アニーは残り、しいなとアーチェでコロネを連れて先に女子寮へと戻る事にした。




いい感じに酔い潰れたコロネを部屋に連れて行き、ベッドに寝かせるしいなとアーチェ。


「ん〜・・・・しゅごれーじん・・・・」


一体どんな夢を見ているのだろう。コロネは気持ち良さそうに眠っている。


「こりゃ、明日は二日酔いだね」


しいなはコロネの幸せそうな寝顔を見ながら苦笑いしていた。


「まあ、どうにかなるでしょ」


特に心配する様子もなく、アーチェは言った。


「んじゃあ、そろそろ部屋に戻ろうかね」


しいなは部屋の明かりを消して、コロネを起こさないよう、そっとアーチェと部屋を出る。


「・・・・・今日は本当に楽しかった。ありがとね、しいな」


ふと、帰り際にアーチェが呟く。アーチェに喜んでもらえれば、しいなも企画した甲斐があったというものだ。


「喜んでもらえてよかったよ。みんなにも、色々と手伝ってもらったし」


と、しいな。リリスたちの協力がなければ、歓迎会は盛り上がらなかっただろう。


歩いて話しているうちに、自分たちの部屋に差し掛かった。しいなとアーチェの部屋は隣り同士だ。


「じゃあ、おやすみ。アーチェ」


「うん、おやすみ」


2人はまたね、と挨拶を交わし、それぞれの部屋に戻っていく。


喧嘩ばかりして対立していた2人だったが、今では嘘のように打ち解けていた。


こうしてまた一日が過ぎていく。楽しかった一日が過ぎていく。


そうして、いつもの日常が始まるのだ。




次の日。


授業を終えた後、アーチェは昼ご飯を買うために購買部へと向かっていた。


「あー、おなかすいたぁ〜・・・・・」


豪快に鳴り響くお腹を押さえながら、食べ物を求め歩くアーチェ。授業中ずっと鳴りっぱなしで、教室に響いていたくらいだ。


「何食べようかな・・・・」


お昼に食べるものを考えながら、何気なく天井を見上げている時だった。


「あ、アーチェちゃん。ここにいたのね」


途中でアーチェを呼び止めたのは、保健室の先生のアスカだった。


ただいつもの笑顔はなく、今日に限って表情が少し険しい。


「あれ、先生。何か用事?」


「フィアネス先生が至急教室に来てって。あなたのご家族に、何かあったみたいなの」


それはアーチェの父親からの連絡だった。


アスカは連絡の内容を告げると、アーチェの表情が次第に凍り付いていた。父親が急病で倒れたらしい。


「お父さん、が・・・・・」


アーチェの父親は、今まで大きな病気をした事がなかった。アーチェを呼び出すくらいなのだから、かなり重い病なのだろう。


(お父さん・・・・・!)


とにかく、さらに詳しい話を聞かない事には始まらない。アーチェはアスカに礼を告げて、職員室へと駆け出した。




その日の夜の事。


アニーとリリス、しいなとアーチェの4人は、コロネの部屋に集まり、二日酔いで寝込んでいるコロネのお見舞いに来ていた。


「うぁー・・・・あったま、いったい・・・」


ずきずきと痛む頭を抱えながら、コロネは呻いていた。歓迎会の次の日に、二日酔いで休んでしまったのだ。


「だから飲み過ぎだって言ったのに・・・・馬鹿だねぇ」


忠告したのに、と呆れ返るしいな。コロネはうるさいと言って反論するが、声は酷く弱々しかった。


「お粥作っておくから、お腹すいたら温めて食べてね」


リリスはコロネにお粥を作り、アニーは傍らで酔い止めの薬を調合し、やることがないノーマとしいなは話し相手になっている。


一方のアーチェはというと、部屋の窓を開けて、月明かりが照らす街並みを、ただずっと眺め続けていた。


(・・・・・・・・・・・・)


何も考えずに、ぼーっと眺める。その表情は、どこか切なく寂しげだった。


すると、


「アーチェ、どうしたんだい?珍しく静かじゃないか」


いつもなら、うるさいくらいにお喋りをするアーチェ。大人しくしているのが気になり、しいなが窓の外に顔を出す。


「え・・・・・・?ううん、別に何でもないよ」


アーチェはパッと表情を切り替えて、明るく振舞ってみせる。けれども、しいなには様子がおかしく見えた。


「・・・・・悩み事でも、あるのかい?」


念のため尋ねてみるしいな。するとアーチェは腕を組み、しばらく考えに耽ると、


「・・・・・・まあ強いて言うなら、しいなの胸の事かな。そのムダ乳を見るとどうも、ね」


自分の胸に視線を下ろし、苦笑いするのだった。差があり過ぎて惨めになると、アーチェは溜息をつく。


恥ずかしくなったしいなは赤面して、胸元を両手で覆い隠した。


「そーそー。あたしも贅沢は言わないけどさ、アレの半分くらいは欲しいよね」


ノーマがしいなとアーチェの会話に割り込み、途中参加。"ない"もの同士、アーチェの話に共感し、力強く頷いていた。


「いい、しいな・・・・デカけりゃいいってもんじゃ」


「コロネさん、大人しく寝ててください」


コロネが会話に参加する寸前、アニーに止められた。リリスは何も言ってはこないものの、視線はしいなの胸に注がれている。


アニーも薬剤を調合しつつ、チラチラとしいなの胸に目をやっていた。


気が付けば、女子全員の視線がしいなに。


「あ・・・・・・あたしにどうしろってんだい」


困り果てるしいな。さすがにこればかりはどうしようもない。


そんな話で盛り上がりながら、また夜が過ぎていく。しいなはアーチェの様子が、ずっと気になったままだった。




次の日、授業が終わると、しいなはアーチェを中庭に呼び出した。


昨日のアーチェの様子が気にかかり、どうしてもはっきりとさせておきたかったのだ。


何もなければそれでいい。けれども何かあると、しいなの感がそう訴えていた。


「何、話って?」


昨日の態度とは打って変わって、いつも明るく振舞うアーチェ。2人はベンチに腰掛け、しいなは早速昨日の事を話し始めた。


「昨日の事なんだけど・・・・やっぱり、あんた何か変だよ」


「・・・な、何よ急に。あたしはいつもこんな感じだよ?」


アーチェは笑って否定するが、一瞬だけ、うろたえたような表情になったのを、しいなは見逃さなかった。


何か、ある。


「あの時胸がどうとかって言ってたけど、本当は他に何かあるんじゃないのかい?」


まるで尋問するかのようにしいながアーチェに詰め寄った。そんな自分に、少しだけ嫌気が差す。


「べ、別に何でもないってば」


しいなの迫力に圧倒されたのか、アーチェはとうとう目を逸らした。


「何かあるなら話とくれよ、友達じゃないかっ!!」


感情が爆発しそうになる。しいなはムキになり、アーチェの両肩を掴んだ。するとアーチェは怒りで身体を震わせて、


「・・・・・だから、何でもないってさっきから言ってるじゃんっ!!!!」


しいなの腕を振り払い、黙っていた分を吐き出すように、思いっきり怒鳴りつけた。驚いたしいなは何も言えず、思わず後退る。


「・・・・・ご、ごめん」


カッとなっていた頭が冷えて、しいなはようやく冷静さを取り戻した。感情に任せて突っ走った自分が情けなく思えた。


「・・・・・もう、いいから」


アーチェは怒鳴ってはいたものの、気にはしていなかった。


ただ、表情は弱々しく、唇は小刻みに震えている。いつもの元気な姿はそこにはなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・。


しばらく長い沈黙が続いた。お互い目を合わせず、地面に視線を注いでいる。


「・・・・・・そっか。何もないなら、それでいいんだ」


すると、しいなが先に口を切った。もうこれ以上アーチェに追及しなかった。何を言っても、余計なお節介にしかならない。


しいなはベンチから立ち上がると、大きく背伸びをして欠伸を欠いた。


「あたし、勘違いしてたよ。あ〜あ、心配して損した」


アーチェに背を向けたまま、急に態度を崩してしいなは言った。まるでどうでもいい事かのように。


まるで、投げ出すかのように。


「・・・・・・・・」


アーチェは何も言ってはこなかった。けれども、しいなは続ける。


「何か悪かったね、付き合わせちゃって。後で埋め合わせはちゃんとするよ」


声だけはケロッとした態度で、しいなはそのまま学校の中へと走り去っていく。その背中が、寂しげに見えた。


アーチェはただ、その姿を見送る事しかできない。


(・・・・・・これで、いいんだ)


父親の病気の事は言えなかった。余計な心配を、かけたくはなかった。


これでいいと、何度も自分に言い聞かせた。同時に打ち明けられなかった自分を悔やんだ。


友達なのに、どうして言えなかったんだろう。友達だからこそ、あえて言わなかったのかもしれない。


気がつけば、アーチェの目から一滴の涙が零れ落ち、頬を伝っていた。




その日を境に、しいなとアーチェの関係はおかしくなった。喧嘩どころか、口数さえも減ってしまっている。


授業の時も帰る時も殆ど無言に近く、必要最低限の事でしか、会話が成り立たなくなっていた。


しばらく様子を伺っていたリリスたちもさすがに見兼ねて、お昼の時間に2人から事情を聞き出す事に。


「ねぇ・・・・2人ともどうしちゃったの?」


早速、話を切り出してみるリリス。ずっと心此処にあらずだったしいなとアーチェは、リリスの声ではっと我に返った。


「あ・・・・・いや、別に」


「うん・・・・・何でもない」


2人の反応がぎこちない。そこで会話が途切れて、お互いに黙り込んでしまった。


まるで、2人の間に分厚い壁ができてしまったかのように。


「何か、すごく気まずい」


コロネもこの異様な空気に耐えられなかった。食欲がなくなり、持っていた食器を置く。


リリスやノーマ、アニーとフレイもこれ以上の追求はしなかった。いや、できる雰囲気ではなかった。


「・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・」


長い沈黙が訪れる。アーチェとしいなはお昼が終わるまで、ずっとこの状態だった。




そんな状態が何日か続いたある日の事。1時間目の予鈴のチャイムが鳴り、しいなはいつものように席に座っていた。


(アーチェ・・・・・今日は欠席かな)


今日は珍しく、アーチェが来ていない。そういえば、朝登校するときも姿を見せていなかった。


何かあったのだろうか。そう考えを巡らせるも、それは躊躇われた。あの時以来、アーチェをずっと避け続けていたのだから。


(あたし、何気にしてんだろ)


もうアーチェとは関われないと分かっているのに。そんな自分に、しいなは少しだけ苛立ちを感じていた。


すると、


「しぃちゃんっ!!」


ノーマとリリスが大慌てで教室に入り、しいなに駆け寄ってきた。走ってきたのだろう、2人は息を切らしている。


「どうしたんだい?そんなに、慌てて」


「はぁ・・・・はぁ・・それが、」


息を整えて言おうとした矢先に、フィアネスが教室に入ってくる。リリスはまた後でねと言って、ノーマと席へ戻っていく。


「みんな、席について」


フィアネスが教壇に立ち、生徒たちが席についたことを確認すると、少し間を置いて、話し始めた。


「おはよう・・・・今日は授業を始める前に、みなさんにお知らせがあります」


すると、生徒たちがざわめき始める。先生の表情はどこか寂しげだった。


「今朝、アーチェが家族の都合で故郷へ帰りました」


突然の報告に、生徒たちは耳を疑った。いや、一番耳を疑ったのはしいなだったに違いない。


「短い付き合いでしたが、今までありがとうございましたと、皆さんに伝えてください・・・・との事です」


フィアネスはそう生徒たちに告げて話を終えると、何事もなかったかのように授業を始めた。


(・・・・アーチェが、そんな・・・)


アーチェが、いなくなった。本当に突然の事で頭の中の整理がつかない。


アーチェからは何も聞かされていなかった。様子が変だったのは、その事を隠していたからだろう。


きっとアーチェは、誰にも心配をかけたくなかったのだ。


(・・・・・・・・・・・)


アーチェに何かある事は分かっていた。追求すればする程怖くなり、次第にアーチェと話さなくなっていった。


関係が壊れるのが、怖かったから。


「・・・・・しぃちゃん?」


しいなが思い詰めるように視線を落としていると、ノーマが心配して声をかけてくる。


「あ・・・・ごめん。何かボーっとしちゃって」


しいなは何でもないと言って、教科書とノートを開いて誤魔化す。


さっきリリスとノーマが伝えたかった事は、アーチェのことなのだろうと理解した。


すると、


「・・・・・・・あれ」


開いた教科書のページに、一通の手紙が挟まれていることに気付いた。


誰からだろうと手紙を抜き取り、差出人の名前を探すと、手紙の裏に名前と短い文章が書かれていた。


“しいなへ アーチェより”


(・・・・・・アーチェ?)


それはアーチェからの手紙だった。しいなは慌てて手紙をポケットにしまい込む。


部屋に戻ったら読もう・・・・アーチェの手紙のことで頭がいっぱいになり、とても授業には集中出来なかった。




しいなは授業を終えるとすぐに教室を飛び出し、寮へと帰宅して自分の部屋へ駆け込んだ。


「はぁ・・・・はぁ・・・・」


息を切らしながら鞄を投げ出すと、ベッドに横たわってアーチェの手紙を広げる。


『―――あたしの最高の友達へ』


文頭にはそう書かれていた。しいなはさらに続きを読んでみる。




―――あたしの最高の友達へ


しいながこれを読んでいるときには、もうあたしはここにいないと思う。


実はお父さんが病気になっちゃって、急に田舎へ戻ることになっちゃったんだ。


手紙なんてびっくりしたでしょ?あの時、しいなやみんなに心配かけたくなくて、正直に言えなかった。ごめんね。


だけど、しいなにはバレバレだったかな。あたし、顔に全部出ちゃうからさ。


今になって、ものすごく後悔してる。


でも、これだけははっきり言いたい。しいなやみんなと出会えて本当によかったって。


最初は嫌な奴だって思ったよ。けどしいなと一緒にいると、いつも楽しかった。毎日が・・・輝いてた。


あたししいなが大好き。短い付き合いだったけど、今までありがとう。


どんなに離れてても、ずっとずっと、しいなはあたしの最高の友達だから!





(・・・・・・・あいつ)


しいなは手紙を読み終えると、そっと手紙を閉じた。仰向けになり、意味もなく天井を見上げる。


「・・・・馬鹿だよ、あんたは。本当に」


アーチェがいたら、そう投げ掛けたくなった。けれどもそのアーチェは此処にはいない。もう二度と会えることはない。


そう思うと、後悔の波が一気に押し寄せてきて、しいなの目から涙が零れ落ちる。


「馬鹿だよ・・・・・大バカだよ・・・・バカ・・・ばか・・・」


溢れる涙を何度も拭った。それでも涙は止まってはくれなかった。


「くっ・・・・・う・・・・うわああああ・・・・・あ・・・・・」


持っていた手紙がしわくちゃになるくらい握り締めながら、しいなは涙が枯れるまでずっと泣き続けていた。


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